青井タイル店

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読んだ本のメモ:ほぼ自分語り 小泉 悠『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』

 コロナ感染と後遺症により、ほぼほぼ家に篭り続ける生活をはじめて早一ヶ月。家に居続けるのは気が滅入るし、まだあまり固い文は読めないから、エッセイに手をつける。

 今をときめく小泉悠氏のエッセイだ。

 

 この本は以下の構成から成る。

  • ロシアに暮らす人々
  • ロシア人の住まい
  • ロシアの地下空間
  • ロシアの食
  • ロシアを取り巻く国際関係
  • プーチンの権力

 ロシアでの生活経験があり、トークイベントでも大活躍する小泉氏のご本だけあり、流石に面白い。ロシアってどんな雰囲気の国なんだろうか?というのをバクっと捉える上でも、大変役に立つのではないかと思う。

 

 自分語りをすると、私はロシアの隣国ベラルーシに半年程度留学していた経験がある。期間は短く、学生というゆるい立場なのだから、小泉先生の経験の「密度」には到底及ばない。当然、隣国であるからロシアそのものではない。けれど、書かれる生活のディテールに「確かにこんなだったなと」懐かしく頷けるものがある。一度あの辺りの国に関わった身なら、その頃のことを語り出さずにはいられない。そういう引力を持つ本だ。

 

以下、走り書き

ダーチャについて

 言うまでもなく旧ソ連圏の「週末」を語る上では、ダーチャはキーワードとなる。私も現地人のダーチャに行った。

 稼働していないDIYサウナに案内され、「俺はハンターでもあるんだ」とシャシリクを振る舞ってもらったのが懐かしい。その際「アフリカからヨーロッパに入った不法移民たちはiPhoneを使っているから、難民というのは嘘だ」と語られ、かなり渋い思いをしたことも忘れ難い。

 「家で使わなくなった家具をダーチャに持ち込む」という話もされた。家の思い出をダーチャに溜め込むそうだ。それはとても良いことだと思う。

 

「偉大なるおせっかい」について

 ロシア人は冷たいというイメージを抱かれがちだが、意外とおせっかいなところもある。という話が出てくる。これはベラルーシ人についても言える。

 寮の隣の部屋(厳密には隣のブロック)には、現地人の女子三人組が住んでいた。一人は日本語を、もう一人は中国語を勉強しており、残りの一人は何語を勉強しているかわからないけれど、私が毎日のように鶏肉を焼いていると、今日も鶏皮焼くのか?とからかってきた。三人はよく私の様子を見に来ていた。お腹が減って何もやる気がわかず床で仰向けになっていると、お菓子やハムなど、食べ物を持ってきてくれた。

 

地下鉄について

 ロシアの地下鉄の美しさは有名だけれど、ベラルーシの地下鉄も相当に美しい。撮影禁止であったため手元に写真が載っていないのが口惜しい。日本で綺麗な地下鉄ホームを見ると、「共産圏みたいだ!」と感動する。日本で一番近いのは御堂筋線だ。大阪は一度共産圏に支配されていたのだと思う。

 

おおらかさについて

 フクロウを肩に乗せて地下鉄に乗る男のエピソードが語られている。ベラルーシでは、寮内でデカいネズミを飼っている女子二人組がいた。週末になると彼女たちは寮の前の草っ原でネズミを触って遊んでおり、私がスーパー(正確にはハイパーマーケット)の帰りに通りかかると、触らせてくれた。近所では野犬がうろついており、スーパーの帰りがけ、トルクメニスタン人が踏み固めたという不確かな伝説をもとに「トルクメンロード」と名付けられた畑をつっきる道(市街地へのショートカットなのだ)で犬に出会した時は、キャベツで彼らの気を引いて逃げ出すなどしていた。

 

他の留学生、それと酒について

 ベラルーシミンスク大学には留学生が多い。私の同じブロックにはリビア人たちが住んでおり、風呂やトイレ、玄関の掃除の分担していた。彼らが私にスイカをわけてくれたのをきっかけに、食べ物の物々交換のような交流をした。

 一番愉快だったのはイラン人との飲み会で、リンゴや葡萄を肴に、強烈な蒸留酒(おそらくアラックだろう)を振る舞われた。彼らには独自の宴席マナーとジョークがあり、基本的には一番厳しい男が他のメンツに酒を注いでいたものの、一番ナヨナヨとした下っ端っぽい男が他のメンツに酒を注ぐと、「いやお前が注ぐのかよ」という笑いがドッと沸いた。おそらく偉い奴が酒を注ぐ文化なのだと思ったが、詳細は知らない。

 飲み会のノリが近かったのは韓国人たちで、これは何も意外性がないだろう。下品な大学生男女グループによるしょうもない飲み会を全うすれば、コミュニケーションが成立した。彼ら彼女らはペニスの話を愛し、私もペニスの話を愛した。

 日本通のベラルーシ人、トルクメニスタン人(私の顔がオタクっぽいという理由だけで私の部屋に出入りするようになり、そらのおとしものハイスクールD×Dの話を振ってきた)と酒を飲んだときは、ウォッカを飲まされ、日本人はフィクションで描かれた通り酒を飲ませると顔がメチャクチャ赤くなる、ということに感動をされた。死ぬかと思った。

 

オタクの話し方について

 銀魂で日本語を学んだと思しき現地人の女性は、予想外の出来事に直面すると「オイイイイイイイ!!!」と叫んでいた。 маршрутка(マルシュルートゥカ。ロケバスみたいな車による巡回バスみたいなもん)に乗り損ねた時は「 オイイイイイ!!маршрутка行っちゃったんですけどぉおおお!!!」といったようなことを叫んでいた。

 

クラブについて

 DJが交代する際は音楽が止まっていた。

 

美味しかったもの

 路上で売られていたクワスウォッカで流し込むサーロ、生の玉ねぎ、魚類の酢漬け、黒パン。

 

まとめ

 もう一度ベラルーシで暮らしたいとは思わないし、足を運びたいとも思わない。それでもなんとなく懐かしいのは確かだ。今のように蒸し暑いと、常識的な暑さに留まるミンスクの夏と、クワスが恋しくなる。